情報を扱う専門職の葛藤
個人情報保護や秘密保持について
ソーシャルワーカーやケアマネジャー(以下、援助職、等と記載します)の仕事には葛藤がつきものです。何でも相談してくださいねと言いながら、これ以上はできません、と言ってみたり、あなたの味方ですと言って情報を聞き出しておきながら、虐待の通報をする際には敵のようになってみたり、そのような態度を取った経験は対人援助職者であれば誰しもが経験したことだと思います。しかし、そのような対応をするのには大きな理由があります。利用者を守るという専門職としての大前提があるからです。そのために、自分ができもしないサービスを提供するかのような期待を持たせないよう限界を伝えること、加害者に本音を語ってもらいつつも被害者の安全確保は絶対に譲らない、というスタンスを貫くことになります。この事が時に葛藤を生み出します。
この葛藤は個人情報の取り扱いにおいてもみられます。相談内容は本人の同意なしに他人には開示しないという前提がある一方で、生命の安全確保のために情報公開に踏み切ることもあります。業務上知り得た情報を外部に漏らさないという守秘義務自体は、どの職種にも発生しますが、場合によっては開示する倫理的責任があるというのが援助職における守秘義務の特色です。
倫理的責任という意味では、開示する情報を最小限に留めるということもあります。情報は出来るだけオープンにした方がより良い援助につながるのではないか、と思われがちなため、他職種からはいろいろと情報を求められますが、援助職者は利用者を守るために、情報提供や情報共有が適切かどうか、常に注意しなければなりません。アメリカのHIPAA法や日本の個人情報保護法では、利用者の個人情報の共有は目的と共有先について必要最小限かつ限定的に留めることとされています。利用者の個人情報を知ることで得た「力」を援助者が乱用したり、利用者が搾取されたりする事がないようにという配慮ですが、一歩踏み込んで解釈するならば、援助職者がつい過度に情報を共有してしまいがちだということです。
情報はとても貴重であり大切なものです。ある演習があるので紹介します。グループでの演習なのですが、数名が輪になって座ります。各々が紙とペンを持っています。自分もその一員で参加していると考えてください。演習を仕切っている者から「自分の最大の秘密を紙に書いてください」「書いたら小さく畳んでください」「ではそれを隣の人に渡してください」と言われます。みなさんならどうしますか?他人にすんなりと紙を渡す事ができますか?この演習の目的は、自分の秘密を他人に託してしまうという無力感と、他人の秘密の運命を手中にする責任の重さを味わうことでした。守秘義務なんて信用してないから何も書いてないという人もいました。手の中の紙が重たすぎて怖くて手を開けないという人もいました。受け止め方は人それぞれだと思いますが、秘密を人に預ける、預かるというのはそのくらい大変なことなのだと思います。薬局でも日常的に多くの情報を取り扱っています。折に触れてその重さを思い返したいものです。